カンボジア その2
 プノンペン
  アフタヌーン

ホテルのプール・サイド。
大きな樹木のしたの木陰に陣取って、昼寝。
街中の喧騒と排気ガスが嘘のようだ。
アジアのホテルのプールは穴場なのです。
ハワイやヨーロッパのリゾートではこうはいかない。
白人達に占領されて、鬱陶しい。
昨今の風潮では、
のんびり煙草も吸えない。

アンコール・ワットのあるシュムリアップのホテルでは
広いプール・サイドに老夫婦が一組いただけだった。
ほとんど全員がアンコール観光目的で泊まっていて、
貸切に近い贅沢な気分が味わえた。
リゾート気分でぼーっとするなら、世界遺産のある
観光地のホテルのプールがお勧めです。

俺だって、観光しないわけじゃありません。
プノンペンでは、国立博物館が素晴らしい。
アンコール遺跡の石像は殆どレプリカで、
本物はこの博物館に展示されている。
迫力あります。惹き込まれます。
ジャヤバルマン7世像は圧巻です。美しい。
写真は中庭だけ撮影してよろしい事になっている。
この中庭が、心地いい空間でお勧めです。

朝は人影が疎らだったプールも、
さすがに最も気温が高い時間なので、
すべてのチェアーが埋まっている。
だが、日本人は一人もいない。
本館と旧館を結ぶ廊下を隔てた反対側にある子供用の
浅いプールで、甲高い声を張り上げてガキを遊ばせている
中国人のおっさんが、唯一の黄色人種だ。

いつも疑問に思う事がある。
白人はナゼ平気で直射日光を浴び続けていられるのか。
俺などは、木陰を求めてズルズル椅子を移動させる。
殆どの白人が、強烈な太陽光線下で肌を焼いている。
オイルを塗りたくり、サングラスをかけ、
マガジンやニュースペーパーを読んでいる。
クロスワードを解く。ひたすら寝る。
水着のブラのヒモを外してうつ伏せで焼く。
暑くないんだろうか。
皮膚が鈍感なんだ、としか思えない。
けだるい午後の静かな時が流れる。

「わぁ、焼けそう」
マリコが部屋から降りてきた。
「かぼちゃプリン、食べちゃったわよ」
「え、全部?」
「だって、お昼がフォー食べてだけだったでしょ。
 お腹すいちゃった。マンゴーも美味しかった」
「昼寝した?」
「うん、少し。ねぇ、夕ご飯は何処に行くの?」
「今、何時だ」
「もうすぐ4時よ。お昼があれだったから、
ちゃんとしたものを食べたいわ」
「じゃ、ホテルでフル・コースにするか、
クメール料理という手もあるけど、それは明日でもいいし」
「そうね。アラカルト・メニューもあるかしら」
「よし。ビシっと決めていこう。朝食用じゃないほうの
 レストランは、夜はドレス・コードだと思うけど」
「じゃあ、私、先にお風呂に入って支度するから、
 あと30分ぐらいしたら上がってきて」
「らじゃー」

ひとっ風呂浴びて、ディナー用の服に着替える。
念の為に持ってきたネクタイが役に立つ。
リゾートといっても侮れない。
イギリスの田舎のホテルでは、ジャケット、ネクタイ
着用必須でレストランの入場を断られた。
ニューヨークのレストランでは、ネクタイを締めていくと
いい席に案内される確率が高かった。
白地にうすい茶のストライプが入ったジャケット。
淡いオレンジ色のパンツ。
ブルーのYシャツに、オフ・ホワイトのニットタイ。
素足に白いデッキ・シューズ。
知的に見せるためのノン・フレームの眼鏡。
って感じに決めて、レストランに向かう。
ロビーの一角で弦楽三重奏の生演奏をやっていたので、
しばし鑑賞。
「ねえ、予約してないけど大丈夫かしら?」
「まだ時間も早いし、問題ないんじゃない」

奥まった所にあるレストランは、重厚な造りで、
天井が高く、風格ある趣だった。
客は誰もいなかった。
広いレストランにふたりだけ。
一瞬、いやな予感がした。
慇懃な態度で、席に案内してくれた初老の給仕係りに
メニューを手渡され、選んだ料理は

 アプタイザー
俺 アボガド入りフレッシュ・サラダ
マリコ 青いパパイヤとキャロットのサラダ
 メイン
俺 ダッグのロースト・オレンジソース
マリコ アモック・トゥレイ(カンボジア名物料理)
 それにオーストラリアの白ワイン

ひろい空間で、ふたりだけのディナー。
料理が運ばれてくる。
いやな予感は的中した。
まあ不味くはないけど、つまらない味で、特色がない。
おまけに、半ベジタリアンのマリコのメイン料理は、
ココナッツ蒸しの魚のみで、野菜が入っていない。
量も少ない。
「スープも頼めばよかったわ、あなたが多すぎて残すから
 やめたほうがいいって言ったのよ」と、不機嫌。
「あれ?眼鏡がないぞ。うん?何処に置いてきたんだ」
と、俺も不機嫌。
さらに、ラフな半そでシャツを着た白人カップル客が、
席に着くなりバシャバシャ写真を撮りまくる。
「ドレス・コードじゃなかったのかよ」
続いて、中華系の四人連れが、やはり半そでのYシャツ
姿でゾロゾロ席に着くなり、大声で喋りまくっている。
俺の不機嫌は頂点に達した。
「デザートなんかいらん。メイン出すのに30分もかかり
 やがって。部屋に戻るぞ。いくらだ、70ドル?。けっ、
 だからホテルで飯食うの嫌なんだ。不味い、高い、遅い
 の三役揃い踏みだ。アジアのホテルのレストランは中国
 以外は期待しない方がいいと判っていて、なんで、こう、
 何遍も同じ過ちを繰り返すのか。
 ・・・まあワインだけはうまかったが」

部屋に戻り、氷をバスケッット一杯持って来てもらい、
市場で買っておいたオレンジを絞って、ウォッカで割って、
グビっと飲む。
バナナをスライスして、チョコレートと一緒に食べる。
マンゴーを剥いて、むしゃぼる。
やっと満ち足りた気分になり、胃袋も落ち着いた。
隣のベッドで本を読んでいるはずのマリコを見ると、
胸の上に本を落として、すでに眠っていた。
音量を落としてテレビを見ながら、ちびちびウォッカを飲む。
見知らぬ女性歌手が、派手な衣装で歌っている。
さてと・・・・・寝るか。
このだらけきった気分が、アジアの旅の楽しさなのだ。
Date: 2007/03/15(木)


カンボジア その1
   首都・プノンペン
   ある一日

朝、6時に目が覚める。
プールに行く。
持参した物。
ノート。ペン。読みかけの本。
日焼け止め(BANANA BOAT50)
果物(マンゴー、なし、バナナ)とナイフ。
日本から持ってきたせんべい。
エビアンのペット・ボトルに入れたウォッカ。

プール・サイドのいい場所を確保するには、早起きして、
デッキ・チェアーにバスタオルを置き、ここは俺の場所だと
意思表示に奔るくせがついている。
フランス統治時代の名残を感じさせる重厚な造りのホテルの
中庭にあるプールには、さすがに誰もいない。
プールのスタッフがのんびりと水面に落ちた葉っぱなどを
かき集めている。
「モーニン」と声を掛け、チェアーにタオルを巻いてもらう。
朝から、日差しが強い。
本を読んでいると、じわーっと汗が噴出してくる。
たまらなくなってバスローブを脱ぎ、水に飛び込む。
1メートル50センチの水深のあたりに移動して、
胸から上を水面に出し、水中歩行を始める。
いい運動になるのだ。
いろんなバリエーションがある。
太ももをおもいっきり上げて歩く。
足を回しながら歩く。
体を捻りながら歩く。
横向きにあるく。
後ろ向きに歩く。
ふと見ると、プール・ボーイが注目していた。彼の心を
分析するに、「何故歩く。何故泳がない?」という事だろう。
無視して歩き続けること20分。やばいことに気が付く。
このままでは顔が日に焼けてしまう。

チェアーにもどり、サン・ブロックを全身に塗りたくる。
一服しながら、ふたたび読書。
プール・サイドには、俺のほかに誰もいない。
王侯気分。
鳥のさえずり、花のかおり。
しかし、暑い。
喉が乾く。
オレンジ・ジュースを持ってきてもらう。4ドル。
絞りたての新鮮な果汁が大きいグラスにたっぷり入っている。
半分ほどグウーッと一気に飲んで、持参したウォッカを注ぐ。
そいつをチビチビ飲みながら読書。
塩味の揚げせんべいをポリポリ齧りながら読書。

ざぶーん、と水に飛び込む。
マイ・スクリュードライバーが空になる。
ライム・ジュースを注文。もちろんノン・シュガーで。
さらにアイス・キューブも入れてもらう。
アジアを旅して下痢しちゃった、という話しを聞く。
「気を付けてたんだけど、たぶん氷でやられたんだと思う。
ビールがヌルかったりして、つい氷入れて、死ぬかと思った」
俺は、そんな物くらいで腹を下したことはない。
きりっと冷たいフレッシュ・ライムのジュースを3分の1ほど
飲み、ウォッカをぶちこむ。
朝っぱらから良い心持ちだ。これぞバカンス。
贅沢なホリデー。

「おっ、白人が三人でおでましときやがったな。ドイツか?
フランス?・・・どーでもいいや、んなことは・・・
マイ・ソルティードッグを・・・あれはレモン・ジュースか、
そうだ、きのう市場で買ったバナナがあったっけ。アジアで
買うバナナは美味い!木で熟して黄色くなったやつだからな。
・・・うん、旨い。なしも剥いちゃうか・・・おー、いける。
くうー、ウォッカがしみる。こりゃー、朝飯抜きだな、・・
・・・・・眠くなってきちゃった・・・・ZZZZZZZ」


昼 11時30分
「ねぇ、お昼どうする?お腹すいちゃった」
マリコに起こされる。
「わぁ、焼けそう。凄い日差し、よく平気で寝てられるわね」
「朝はどーした?なんか食べた?」
「お紅茶飲んだだけ。パンが美味しそうだったけどやめたわ」
「よし。とりあえず、街に出よう」

トゥクトゥクに乗って出発。
昨日と同じドライバー。昨日の値段の半額で交渉したら、
あっさりOK。
強烈な日差しが路面に照り返している。
しかし、この三輪自動車は屋根に幌をのせただけの
全方向オープン・タイプなので風が気持ちいい。
昨日歩いていて目を付けていたフォー屋に向かう。
 注) フォーは、ベトナムの麺。白い麺だが、スープは
ラーメン系。ハノイでもホーチミンでも食べたが、
あっさりしていて美味しい。
だが、どこで食べても、アジアの定番・化学調味料が
きつい。このレストランはめずらしく無化調。

オーダーしたメニュー
 俺 チキンのフォーとビール
 マリコ ベジタブルのフォー
 もう一皿 なすとズッキーニの天ぷら。

「おいしいわね」
「うん、このズッキーニ、絶品」
「・・・あっ、ほんと。野菜がおいしいわね、嬉しい」
「バナナ食べた?」
「食べた食べた、ねっとりしてておいしかった。マンゴーも
 おいしかったわよ、小さいからどうかなと思ったんだけど」
「沖縄のアップル・マンゴーに近い?」
「そう。バナナも、沖縄で食べた小さいの、何だっけ?」
「島バナナ。あとで市場に寄って、もう少し果物仕入れよう」
「・・・あーおいしかった、ごちそうさま」
「この店、当たりだったな」
勘定してもらう。合計金額5ドル。
ホテルのジュース一杯分と変わらない。すごく得した気分。
もっとも朝食付きで宿泊しているホテルの15ドルの朝飯を
パスしたんだから、微妙なところだが。

待たせたおいたトゥクトゥクで本屋へ。
アンコールの写真集を購入。
「お茶飲まない、喉が渇いたわ」とマリコ。
感じのいいショップ兼ティールームの(ジャスミン)に行く。
近くの店で、マリコ買い物。
シースルーのシルクの下着入れを買いあさっている。
店の中まで付いて来たドライバーが、その値札を見て、
びっくりしている。一個10ドル。
彼の心理を分析するに
「何で、こんなもんに高い金使うんだ、馬っ鹿じゃなかろか」
マリコがまだいろいろ物色してるので
近くの店を覗くことにする。
カンボジア名産のブラックペーパーが売られていた。
土産にいい、軽い、嵩張らない。20グラムが一袋で5ドル。
市場なら1キロ買える値段。パス。

うんざりするほど暑いので、ホテルに戻ることにする。
猛烈な日差しに、プールが恋しい。
しばらく走っていると、一軒の店の前で止まった。
ドライバーがニカッと笑って
「ラッキー・ストア、グッド・ショッピング!」と言いながら
店の中に入ろうとする。
みるからに観光客相手の土産物屋。
奴等は、店からバック・マージンが貰えるので、隙をみせると
かならずその手の店に連れて行く。
親切そうで、気の弱そうなので安心してたらこれだ。
「のー、のー、レッツ・ゴー・ホテル」
「ねぇ、市場寄らなくていいの?」
「いい、明日の朝、ぶらっと一人でゆっくり回るから。
アイ・ドント・ライク・ジス・ショップ」
ドライバーは、肩をすくめて走り出した。
さあ、プールに行って惰眠を貪るぞー。

   つづく。
Date: 2007/03/02(金)


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